今年、桃の収穫期に入る直前、「桃のハネダシを売ってほしい」という飛び込み営業があった。
ハネダシといえば、私たちも毎年頭を悩まされるものであり、これまで買い取ってくれる所がなかったわけではないけど、場所が遠かったり安価だったりで毎回お世話になることが難しいところもあった。
そんなところに降って湧いた話。
業者が受け取りに来てくれるし、そこまで高い値段ではないにしろ、どこにも行き場がなく知り合いに配っても配りきれなくて、時として廃棄せざるを得ないようなものも持っていってくれるというのだから農家としてはありがたいことこの上ない話だ。
夫はご近所の農家さんに声をかけ、説明会を開き、結果9件の農家さんが参加することになった。
そして7月5日をスタートに、ほぼ1日おきに業者が桃を買いに来た。
多い時は60枚ものコンテナでうちの事務所はいっぱいになった。
農家さんたちは収穫、選果ののちに出たハネダシをうちの事務所に持ってくるだけでいいし、出す桃の量に応じてその日のうちに即金で支払われるしで大変ありがたがられた。
ただ、桃の集まる場所として使われる側としては、桃だけ集めておけばいいというわけにもいかず、
毎回業者が計測するのに立ち合う必要があったり(ピーク時は2時間かかった)、
業者が置いていった各農家さんへのお金を預かり各々へ渡す任務があった。
指定した時間は事務所を離れられないし、その時間に来れない農家さんには個別に対応したりと、自分たちの業務もこなしながらなので慌ただしい日々が過ぎた。
それなのに、うちに入る手数料はほんの僅か。
夫の人の良さが浮き彫りに(笑)
ある農家さんには『まったく、こんなことは余計なこんだよ!』と言われた。
でもその農家さんの性格を知ってるから、私たちは
『こんな自分の得にもならないことをよくやるじゃん!まったくお人好しなんだから。
でも、ハネダシ引き取ってもらって、うんと助かるよ!ありがとね!』
に勝手に変換させてもらって、ありがたくその言葉を頂戴した(笑)
夫は私からも「全然割りに合わない!」とネチネチ言われながらも、
ニコニコしていた。
夫本人にどれほどの自覚があるかは不明だけど、
親世代や、もっと上の農家さんたちの役に少しでも立ちたいという思いが彼を動かしているように感じた。
自分への見返りも考えずに突き動かされるそんな彼の様子を私はとても頼もしく誇らしく眺めていた。
まさに夫の魂が喜んでいるのを目の当たりにしていたのだ。
それほど大きなことをしているわけではないかもしれないけど、
自分の身近にいる人の幸せが彼の幸せそのものなのだ。
その証拠に、農家のおじさんたちに、
「俺んとうが(俺たちが)おまんを飲みに連れてってやる!」と言ってもらったときの彼のとびきりの笑顔といったら(笑)
それまでの苦労が帳消しになったあの瞬間の彼の嬉しそうな顔を私は忘れることはないだろう。