家族

夫が大福に噛まれたときのこと(後編)

友人にメールしたところ、夫が噛まれたときの状況をできるだけ詳しく教えてほしいとのことで処置が終わった夫に聞いてみた。

実は大福は夫のことを警戒している様子がかなり前からあった。
家に来て1週間ほどは夜間の面倒はずっと夫が見ていてくれて大福もとても懐いていた。
だがその頃一度、大福がしてほしくない場所にオシッコをしてしまったとき、夫は咄嗟に「あーー!ダメだよ〜!」という感じで大きな声を出したことがあったのだ。
手を上げたわけでもない、ちょっと大きな声でダメだと言ったそのたった一回の出来事から大福と夫との信頼関係が崩れていたのだ。

いや、崩れたも何も、まだ家に来て日も浅い大福とは信頼関係もできていない頃だった。

その出来事があってからは夫がお手をさせたりするたびに鼻先にほんの少しシワをよせ軽く唸るようなことが増えた。

今回噛まれたときの状況は、朝起きて夫が裏の小屋のような場所にタバコを吸いに行くときに大福は小屋の中にいて、なんとなくご機嫌余り良くなさそうだなと思った夫はそのまま素通りしようとした。

ところが小屋の中でかすかにシッポを振っている様子が伺えたから夫は小屋の前に行き頭を撫でようとした。いつものように鼻先にシワを寄せる大福に「まあいいじゃんか」というように夫は優しくその鼻先を撫でようとした。

その瞬間けたたましい吠え声が早いか、夫は顔に衝撃を受け立ち上がった。その時にはすでに口と右腕も噛まれていた。

この様子を友人に伝えたところ、まず小屋というのは自分のテリトリーであること、しかも日本犬は特に縄張り意識が強いこと、シッポを振るのは決して嬉しいときばかりじゃなく、警戒しているときのサインである場合もあること。

夫に対してただでさえ警戒心を強めていた大福。大福にしてみたら自分の縄張りにいるのに接近してきた夫に対して「お願いだからそれ以上来ないで」とシッポを振って最後通告していたのだ。

私はそれを聞いて怖くなった。
いろいろなことが怖くなった。
まず、あんなに可愛くて穏やかな大福をそんな心情にさせてしまったこと。
反対に「私の大事な夫をこんな目に合わせた」という気持ちもあり大福のことも怖くなった。
そして警戒心を抱いていた夫にだからそういう事態になったとはいえ、子どもたちや里親希望者として会いにきてくれた家族やそこの子どもたちに何か間違いが起きてたらと思うと本当にゾッとしたし、
犬というものに対しての知識がろくにないまま(シッポを振っていればなんでも喜んでいると思っていた)保護活動としてこれまで犬と触れ合ってきた自分の浅はかさも怖かった。

夫は結局唇(ちょうどほうれい線のあたり)を8針(そのうち口の中が2針)、
右腕を2針縫ってもらい破傷風の注射をしてもらった。
薬局で内服薬をもらい替えのガーゼなどを買い、2人でタクシーのお世話になり帰宅の途についた。

まだアドレナリンが出まくってる感じもしつつ、家に戻るとやっとホッとできた気もした。

夫はその当日は布団に入り休もうとしたがやっぱり興奮していたのか眠れなかったようだったし、それから2〜3日は流石に元気がなかった。
口を大きく開けられないので水分はストローで飲み、食事は柔らかいものをスプーンで食べた。

3日目くらいからだろうか、少しずつ元気が出てきて笑顔も見られるように。
ただ、口を開けれないから笑うのは「うふふふふふふ」みたいな可愛い感じ笑。

大福はというと、その当日病院から帰るとシュンとしていた。
夫も私も大福に少し恐怖心を抱いてしまったから、本当なら抱きしめたいところなのだが「大丈夫だよ」の声かけしかできなかった。

娘たちは何事もなかったかのようにそれまでと全く変わらず大福と触れ合っていたから、内心本当にヒヤヒヤしたし世話を焼いてしまった。

夫にも、無理に近づかないように忠告した。
夫は噛まれて救急車で行くときにも、子どもたちには「大福は悪くないから」と言っていたし、大福本人に対しても変わらず「いい子だいい子だ」と可愛いがりたい様子はあったけど、
とにかく今は知らん顔をして、もう何も怖いことや嫌がることをしないことをわかってもらわないとと思った。

私も何日かかけて、また大福を前のように撫でてあげることができるようになった。
嫌なことさえしなければ大福はいつだって愛らしく人間を歓迎する犬なんだ。
犬はみんなそういうものなんだ。
当たり前のようだけど、こんなことがなければ私は犬の習性というものをろくに知らないままその先もいたかもしれない。

ただ今回ビックリしたのは、「犬に噛まれて縫った」ということを夫がfacebookで発信したところ、「自分や家族も噛まれたことがある」とコメントしてくれる人たちがあまりにも多かったことだ。
犬に噛まれて縫ったことがある人の多さにまた衝撃を受けて、「ああ、やっぱり私たちはまだまだ知らないことがたくさんあったんだなぁ」と。

保護活動をはじめて言葉の話せない犬と暮らし、お世話をすることの大変さやもどかしさをこれまでもたくさん感じてきたけど今回も学ばせてもらったな、、、。

そうそう、こんなことがあって里親希望者さんには考え直したいと言われても仕方ないと思ったけど、全く気持ちに揺らぎはなく、犬と暮らすということはそういうことも含めて覚悟の上ですとのお返事にこれまた自分が情けないやら、良いご家族とのご縁に感謝するやら。

そしてめでたく預かりボランティアをはじめてから初の譲渡となり、引渡しは家族全員で大福を送り届けた。
短い期間とはいえ一度一緒に暮らしたんだもの、大福とのお別れは本当に寂しかったし、大福のこれからが幸せであるよう祈るばかりだ。

幸い里親さん家族と私たち家族とのライングループを作らせてもらうことになりときどき大福の写真や様子をシェアしてもらえるので、私たちはその度に大福が可愛いがってもらってる様子や幸せそうな顔を見ることができている。

大福はもう私たち家族のことは忘れてしまっただろうか。
また会える日を心から楽しみに今日も大福の笑った写真を眺めている、、、。