前回の記事↓
預かり犬「ロイ」のこと④
ときどきの病院受診をしながらもロイはとても落ち着いてきた。
薬は何かしらずっと飲んでいた。
この服薬も一筋縄ではいかず、ご飯に混ぜても鼻が効いて絶対に食べてくれない。大好物の缶詰めに混ぜてみたり、粉にして混ぜ込んでみたり、犬用のふりかけで隠したりあの手この手で飲まそうと試みるがうまくいかない。
しまいにはロイを羽交い締めにして無理やり口に入れ、抵抗するロイに
「ごめんごめん、薬飲んどくれ!」と言いながらゴクンと飲み込むまで口を塞ぎ続けた。
「飲んだ? 飲んだよね!?」
手を離すとポイッと口から吐き出す。
「もう!なんて頑固ジジイなんだ!」
やれやれ、「嫌なものは嫌」頑として受け付けないロイに、生きる姿勢を学んでるような気さえしてくる。
最終的に病院で教わってきた飲ませ方(薬をすりつぶして蜂蜜と混ぜ合わせ指で上顎につける)で次女さんがうまいこと飲ませてくれていた。
それさえ嫌がったけど、カバの口を開けるかのように口をパカっと開かせて素早く上顎に塗るようにつける様はさすが獣医師を目指してるだけあるなぁと感心。
膀胱の横には膿は溜まらなくなっていた。それでもたまにどこかが痛いように高い声で鳴いたり、少量の嘔吐があったり、もともと推定年齢12歳以上だしこんな感じで病院に通いながら余生を送るんだな、、。そして、その余生もそんなに長いものではないのかもしれない。なんとなくそんな気がしていた。
6月17日頃からだろうか、ロイは急に飲み食いしなくなりトイレも自分から訴えなくなった。
なんでも食べれるものをと品を変え試すが、金丸家が破産に追い込まれるんじゃないかと不安になったあの食べっぷりは夢だったのかと信じられなくなるほど食べ物に見向きもしなくなってしまった。
煮干しとか、おやつみたいなものは少しずつ受けつけていたけど、あまりの様子に
「どうしたの?生きる気なくなっちゃったの???」私は問いかけた。
相変わらずふてぶてしい顔のロイは
「もう人間どもにはつきあっておれん」そう言ってるようにも見えた。
19日、病院に連れていき先生に相談。超音波検査では特に何もわからなかった。皮下点滴と注射、薬を処方された。
先生も「こんな感じでターミナルケアに入ってくかな、、」と最後ボソッと言っていた。
それからも食欲が戻ることはほとんどなく、食べてもほんの少し。
ただどこか痛かったり苦しかったりする様子はなくとても穏やかにしていた。
寝ている時間がとても長くなっていた。寝床ではたまに立ち上がり寝る向きを変える様子が見られた。
トイレは自分から訴えなくなっていたから、時間を見て連れて行った。食べていないから無理もない、フラフラとして足元がおぼつかない。外まで間に合わず玄関で出てしまうことも。
水は器を口元に持っていくと飲もうとするので顔を支えて飲ませた。
翌日になると更に動きがなくなっていた。夫が抱いて外に連れていき、私と二人で体を支えオシッコをさせた。
あまりのグッタリ具合に病院に連れて行く。もう歩くことはおろか、体を起こすこと、顔を持ち上げることさえできなかった。
診察台に乗せられたロイの口を先生が開けると、歯茎や舌や口の中が真っ白だった。ビックリした。
なんらかのショック状態であることは確かだから血液検査をしたいと。
結果は重度の貧血状態で、原因は免疫介在性溶血性貧血(自己の免疫が赤血球を攻撃して壊してしまう症状)ではないかと。
PCV(血球容積)という数値が、通常37~55あるところ、6.3%しかなく、あと1%でも下がるとちょっと厳しいと、、、。
今できることは強いステロイドの注射をすることしかないということで打ってもらう。
症状が改善されるとすれば今日、、、。反応がなければそのときが今日ということも、、、。
ことばを失う。そんなに重症で、そんなに急なことだとは。
帰って子どもたちにも説明する。幸いなこと、、という言葉が適しているかはわからないけど、ゴンを見送って半年のわが家にとっては免疫がついていたというか、子どもたちにもそれほどの動揺は見られなかった。
命あるものいつかは息絶えるときが来るし、ロイのここ最近の様子からもなんとなくわかっていたのかもしれない。
そしてその日、劇的な復活はなく朝から速かったロイの呼吸が夕方になり更に速くなり立て続けにウォンウォンと声をあげるようになった。
なんとなくそのときが近いんだと思った。
元の飼い主さんのこと呼んでるかな、、。
苦しいかな。
怖いかな。
子どもたちと側にいた。荒い息をしながら少しのけ反ったと思ったら、大きくひと息。
それで止まった。
そのあと体の反応なのか、少しばかり手が揺れたり口元が動いたりお腹のあたりに何か音がしていたけど、それも見ているうちにすぐに静かになった。
ロイは息を引き取ったのだ。
義父のお風呂介助をしていてその時に立ち会えなかった夫が戻ってきたので
「たった今、、」と報告すると
「ほーかほーか、、」
ここ近年すっかり涙もろくなった夫はロイを撫でながら鼻をすすっていた。
ロイ、、、お疲れさま。ロイの生涯の最後のほんの一瞬を私たち家族が一緒に過ごさせてもらったよ。
安全な場所ではあったと思うけど、ロイにとってはちっとも居心地良くなかったかもしれない。
わけもわからず流れついた場所で戸惑いの日々だったかもしれない。
もう少し元気で、お散歩とご飯くらいは楽しめたらよかったなぁと思うけど、
ロイにとってはたとえ年老いても野山をウロウロしてる方が幸せだったかもしれないね。
ゴンのときはいつか私が虹の橋を渡るときには迎えに来てね、なんてワガママを言ったけど、
ロイ、あなたにはそんなこと言わないよ。
体はウチの庭に埋葬させてもらったけど、お空から見守っててね、なんて言わないよ。
もうどこにでも好きなところへ行って、自由に生きてね。
あと1日早く病院に連れて行ってれば違ったんじゃないか、、、。
いくら後悔したところでロイは戻らない。
「まったく人間どもは」
ふてぶてしい顔のロイが大好きだったよ。
なんかね、私は
「大事なことを見逃すんじゃない。」
「いつでも大切な存在を大切にできているか省みるんだ」
みたいなメッセージをもらってるみたいな気がしたんだ。
だから、大切なことを見失わないように、これからもずっとロイのこと勝手に近くに感じて生きていくよ。
ロイ
ごめんね。
ありがとう。
またね。